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生誕100年 ジャクソン・ポロック展(東京国立近代美術館) 前編

東京国立近代美術館で「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」を観た。紙作品などの展覧会は開かれたことのあるものの、本格的なポロック回顧展は日本で初めて。日本にあるポロック作品28点がすべて集結しているのに加え、MoMAやテートからも作品が来ている。そして目玉作品として、主催者が「この一枚、評価額200億円!!」と少々品位に欠ける宣伝をしている「インディアンレッドの地の壁画」(テヘラン現代美術館)が出品されている。この作品は、1998年MoMAでのポロック回顧展にも出ていなかった作品で、(「ポロックの最高傑作」と言うのは少し大げさだろうが)それが今回日本で見られるのは非常に貴重な機会であるだろう。もちろん「ワン:ナンバー31」や「秋のリズム」といった代表作は来ていないが、それでもそれなりに見応えのある良い展覧会になっている。よく言われるように、そのようなクラシック期(1947-1950)の傑作の不在によって、逆にクラシック期にポロックの頂点を見出すような見方(例えばマイケル・フリードやウィリアム・ルービンのような)とは違ったポロック観が形成される良い機会ともなりうるだろう。実際、初期作品からポロックのキャリアを順にたどっていくと、そのようなモダニズム的見方に容易に当てはまらないポロック像がおぼろげながら見えてくる。絶頂期と言われる47-50年の作品は範例というよりもむしろ例外であり、そこで見えにくくなってしまったポロックの豊穣さがむしろその前後の時期において露わになっているのではないか。そしてそこで顕在化された豊穣さを通してポロックのクラシック期を再照射することによって、クラシック期と前後の時代の間に断絶を見るだけでなく、それと同時に連続性をも発見することができるのではないだろうか。そのときオールオーヴァ&ポーリングというクリシェで表現されるクラシック期のポロックが今までと違う表情を呈することだろう。

では、展覧会の構成に沿って、クロノロジカルに具体的なポロック作品を見ていくことにしよう。(以下、[ ]内の「図録」、「ATP」といった表記は末尾の参考文献を参照のこと。)

この展覧会は4章構成になっているのだが、第一章は1930-1941年の作品で構成されていて、ポロックがまだ美術学校で学んでいた20歳ぐらいの作品から始まる。全体的に厚塗りの作品が多く、トーマス・ハート・ベントン(アート・ステューデンツ・リーグでポロックはベントンの下で学んでいた)やアルバート・ピンカム・ライダー(「私の関心を引く唯一のアメリカの巨匠はライダーだけです」[図録とPollock]と1944年にポロックは述べている。)の影響が見られる。

ベントンの影響下から抜け出すと、今度は徐々にピカソの影響が現れてきた上、ネイティヴ・アメリカン美術の要素がモチーフとして使用されるようになってくる。今回の展覧会で実物の作品を観て思ったのは、ポロック作品において並置(沢山遼のように「隣接性」と呼んでもいいだろう[ATP])と積層化による時間性の発生が画面において生じているのではないかということだ。その二つに関しては後で具体的な作品に即して触れるが、第一章の作品について言えば、主に要素の並置によって画面が構成されているように感じられる。例えば、「無題 赤いアーチと馬のある構成」(1938)。人物のような形象が画面横方向(右から左)に行進しているかのように並置されている。右から左へ歩いている人物像を描いているという意味では、5年近く後の作品だが、ペギー・グッゲンハイムのタウンハウスのために描かれた「壁画」(1943)(本展には出品されてない)との類似性を感じさせる。(「壁画」は人物同士の隙間がほとんどなく、もっと密着した形で描かれているが。) 両者ともそのような人物像の並置によって横方向へのリズムとしての継起性を感じさせる。

この章において一番印象に残った作品は、ポロック初期の代表作と言ってもよいだろう「誕生」(1941)である。これもまた、円形のモチーフが上下に連なり並置されているもの。図録の解説には「旋回しつつ上昇していくようなムーヴメント」が画面にあると記載されているが、特に上下どちらの方向への運動か明確にするものは描かれていないので、「誕生」というタイトルのせいもあり個人的には「生まれ落ちる」というような下方向への動きを感じた。この作品で興味深いのは、おそらく最後に塗られたであろう分厚い白い絵具の部分。マンクーシ=ウンガロが、「パーシパエー」「秘密の守護者達」「雄狼」(すべて1943年作)で形態の描かれていない空白部分が意図的にグレーの絵具でマスキングされていることを指摘している[ATP]が、質感等は異なるもののこの「誕生」でもすでに同じような形で空白部分が白い絵具でマスキングされているように見える。円形モチーフは上下に並置されているが、同時にここでは白い絵具によるマスキングによって画面の積層性も多少なりとも顕在化してきている。

一つ一つの作品を分析しているとキリがないしポロックの真骨頂はこれ以降にあるので、次の章に進もう。まず「ポーリングのある構成 2」(1943)。今展覧会出品作の中ではポーリングが一番最初に登場する作品。一番上の黒く細い線がポーリングで描かれている。まだ画面全体を均等に覆っているとは言えずいわゆるオール・オーヴァと呼ぶことはできないだろう。依然ポーリング技法がここでは試行錯誤の段階にあることが分かる。ポーリングの線の下には絵筆で描かれた様々な色面が広がっていて、上の層と下の層が分離しうまく噛み合っていない印象がある。先ほど「誕生」に関して述べた「積層化」がここではさらに明確な形で現れてきている。(もしかしたら積層化とは、画面に対して垂直方向の並置であるとも言えるかもしれない。)

「赤いグワッシュ」(1944)は意外に複雑な構造になっていて面白い作品。パッと見ると、黒い下地の上に赤い平面が描かれ、さらにその上に様々な色彩の線があるように思えるのだが、よく見ると実際は先に赤い地が塗られその上にいくつもの線、さらにエッジから縁取るように黒でマスキングされていることが分かる。このようにポロックは、見た目と塗りの順番が違うという錯視的制作方法をしばしばやるのだが、このことは「トーテム・レッスン2」でも同様だ。(ちなみにこの作品は「トーテム・レッスン1」とともにグリーンバーグが絶賛している。[Pollockと図録])グレーの地に黒いトーテム像、そこに茶色で目口鼻などが描かれているように見えるが、実際は茶色の地が最初に存在し、その上から黒が塗られ最後にトーテム像の形を残してグレーで全体的にマスキングされているのだ。つまり、最初に見えた順番と全く逆になっている。目や鼻の部分に見える茶色の箇所はむしろこの絵の地なのである。

「アカボナック・クリーク・シリーズ」の一枚である「星座」(1946)も興味深い作品。詳しくは触れないが、ポロックが組み尽くせなかった可能性が詰まったような作品である。(ATPの松浦・林対談を参照のこと。)

では、ポロックの絶頂期とも言われる第三章「1947ー1950年 成熟期 革新の時」に行こう。この時期に至ってポロックは、試行錯誤の末ようやくオール・オーヴァ&ポーリングにたどり着き傑作群を作り上げたと言われる。(特にモダニズム批評に)この時期ばかりを強調する傾向があるのは少々問題があるだろうが、この時期の作品に一つの達成を見るのは間違いではないだろう。今回「ワン:ナンバー31」や「秋のリズム」といったポロックの代表作が来ていないのは残念だが、その分オール・オーヴァ&ポーリングというクリシェに容易に当てはまらない作品を楽しむことができる。まず「無題」(1949)を簡単に見てみよう。この作品、特に変わったところがないように見えるかもしれないが、近寄って見るとキャンバスの表面が最初に部分的にカットアウトされていて、その上から普段通りポーリングが行われていることが分かる。

そしてこれはオール・オーヴァとは言えない小品だが「ナンバー17, 1950」も興味深い作品。黒い地に緑や黄色、赤などで人物のような形象がポーリングで描かれている。これだけでも、マイケル・フリードが言うような[PollockとATP]、線が形象を輪郭付ける役割から解放され西洋美術史上初めて自律的になったという話では済まないことが分かるのだが、そのことはここで置いておこう。この作品において興味深いのは、そのような形象がポーリングで描かれた後にその上から黒の絵具をポーリングしていることだ。地が黒なので、原色系の色でポーリングされた部分ははっきりと見えるが、黒でポーリングした箇所は地と混ざり合ってしまってあまり判然としない。そのように、ポロック作品にはこちらの眼を惑わせるような目立たない要素を持ったものが多い。

後編に続く。


参考文献
・「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」図録 (2011年) [「図録」と略]
・「Art Trace Press 第1号 特集 Jackson Pollock」(2011年) [「ATP」と略]
・Jackson Pollock, Interviews, Articles, and Reviews, 1999 [「Pollock」と略]
・「芸術新潮 ポロック特集 2012年3月号」
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